京都地方裁判所 昭和62年(レ)44号 判決 1988年8月19日
控訴人 ローンズ丙川こと 甲野太郎
右訴訟代理人弁護士 藤田元
被控訴人 乙山春夫
右訴訟代理人弁護士 安保嘉博
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担する。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人勝訴の部分を除き、これを取消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 控訴人は、丁原松夫に対し、昭和五八年一二月一五日に金二五万円を利息日歩二〇銭の約定で、昭和五九年四月一二日に金二〇万円を利息実質年率七三パーセントの約定でそれぞれ貸し渡した。
2 被控訴人は、控訴人との間で、昭和五八年一二月一五日に右借受金債務金二五万円について、昭和五九年四月一二日に右借受金債務金二〇万円について、それぞれ保証をなす旨合意をなした。
3 丁原松夫は、1の各債務の弁済として昭和五九年一月一五日以降九月五日までに八回にわたり合計金一五万八〇〇〇円を、被控訴人は、その後同年一〇月一一日以降昭和六一年五月二二日までに2の各保証債務の弁済として二〇回にわたり合計金四七万六〇〇〇円を、それぞれ別紙計算書1の「キジツ」、「ヘンサイキン」各欄記載のとおり、控訴人に支払った。
4 右支払金につき、利息制限法所定の年一割八分の利率を超える部分を過払利息として順次1の各貸金元本に充当していくと、別紙計算書1の「ジュウトウガク」欄記載のとおりの結果となり、昭和六一年二月二〇日以後の支払金合計金九万六六三一円は過払いとなる。
よって、被控訴人は、控訴人に対し、不当利得返還請求権に基づき、右過払金九万六六三一円およびこれに対する本件訴状の送達の日の翌日である昭和六一年七月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1および2の各事実は認め、同3の事実は否認し、同4の主張は争う。
三 抗弁
1 控訴人は、登録番号京都府知事(〇二)第〇〇一六九号(但し、登録更新前であった本件各契約締結時の登録番号は京都府知事(〇一)第〇〇一六九号)、商号ローンズ丙川で貸金業を営んでいる者である。
2 控訴人は、丁原松夫および被控訴人とともに前記各貸付および保証につき、左のとおりの記載のある各借用証書(保証契約書を兼ねる。)を作成し、これらをそれぞれ、丁原松夫と被控訴人に交付した。
(昭和五八年一二月一五日貸付関係)
金額 二五万円
契約日 同日
利息 日歩二〇銭
弁済方法 定めなし。
弁済期 同
連帯保証人 被控訴人
(昭和五九年四月一二日貸付関係)
金額 二〇万円
契約日 同日
利息 年七割三分
弁済方法 定めなし。
弁済期 同
連帯保証人 被控訴人
被控訴人は、請求原因3の支払(但し、別紙計算書1の昭和五九年四月一二日以前の支払分を除く)を、本件各貸付金の利息に対する弁済としてなしたが、その際、控訴人は直ちに、弁済者が丁原松夫であるときは同人に、弁済者が被控訴人であるときは被控訴人にそれぞれ領収書を交付した。右領収書には、被控訴人の商号および住所・貸付金額・契約年月日・受領金額・受領日が記載されているが、貸付金額については、右各領収書受領者の承諾(以下、「本件承諾」という。)のもとに前記各貸付金を一本として金四五万円と、また、契約年月日も、前記各貸付のうち後に成立した契約の日付である昭和五九年四月一二日とそれぞれ記載されている。但し、被控訴人が銀行振込によってなした昭和六一年二月二〇日から同年五月二二日までの四回の支払については、控訴人と被控訴人との間の合意により、被控訴人の方が、控訴人営業の店舗に赴いた際、これを受取ることとなっていたが、被控訴人は右店舗に来なかったし、また、控訴人に対して右領収書の交付の請求もしなかった。
3 前記支払は、弁済者丁原松夫ないし被控訴人の任意によるものである。
4 よって、前記支払は、貸金業の規制等に関する法律第四三条の「有効な利息の債務の弁済」とみなされ、元本に充当されたり、控訴人の不当利得となるものではない。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は不知。
2 同2の事実のうち、利息弁済の点は認め、その余は否認する。
3 同3の事実は否認し、同4の主張は争う。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因について
1 請求原因1および2の各事実は当事者間に争いがない。
2 次に、同3の事実について判断するに、昭和五九年六月九日以降の支払(以下、「本件支払」という。)については、《証拠省略》を総合すれば、これを認めることができるが、その余の支払についてはこれを認めるに足りる証拠がない。
3 そこで本件支払につき、利息制限法所定の制限利率(年一割八分)にしたがって前記各貸付金の利息を計算し、当該利息にこれらを充当し、当該利息を超える部分を過払利息として順次前記各貸付金の元本にそれぞれ充当していくと以下のとおりの結果となる。
(1) 昭和五九年六月九日支払分(金二万四〇〇〇円)
昭和五八年一二月一五日の貸金二五万円の利息の額は、
二五万円(元本額)×〇・一八(制限利率)÷三六五日(昭和五八年の年間日数)×一七日(同年中の利息期間)+二五万円(元本額)×〇・一八(制限利率)÷三六六日(昭和五九年の年間日数)×一六一日(同年中の利息期間)=二万一八九〇円(円未満四捨五入、以下同じ)
である。
また、同年四月一二日の貸金二〇万円の利息の額は、
二〇万円(元本額)×〇・一八(制限利率)÷三六六日(昭和五九年の年間日数)×五九日(利息期間)=五八〇三円
である。
したがって右利息合計額金二万七六九三円に、右支払金二万四〇〇〇円を各充当すると、計金三六九三円が未払利息となる。
(2) 昭和五九年七月五日支払分(金二万四〇〇〇円)
前記各貸付金の同年六月一〇日から同年七月五日までの利息の合計額は、
四五万円(元本合計額)×〇・一八(制限利率)÷三六六日(同年の年間日数)×二六日(利息期間)=五七五四円
であるから、これに右未払利息金三六九三円を加えた金九四四七円にまず充当し、その残額金一万四五五三円が前記各貸付金元本に按分して充当される。したがって、右元本残額合計は金四三万五四四七円となる。
(3) 昭和五九年八月一三日以後の支払分の充当関係は別紙計算書2のとおりとなり、本件での過払金総額は金八二九六円となる。
二 抗弁について
1 まず抗弁2の事実中貸金業の規制等に関する法律第一七、一八条所定の書面の交付等についてみるに、貸金業者が貸金業の規制等に関する法律第四三条の適用を受けるためには、同法一七条に定める各記載事項(省令事項を含む)をすべて記載した契約書面を貸付の相手方に交付しておかねばならないと解されるところ、控訴人が本件金二五万円の貸付の契約証書として丁原松夫に交付したとして提出する乙第五号証には、貸付の利率として、実質年率で表示すべきである(同法第一七条第一項第四号、第八号、同法施行規則第一三条三項、第一一条三項)のに、日歩で表示しており、また、《証拠省略》によれば、本件金二〇万円の貸付の契約証書には、貸金業者である控訴人の登録番号の記載を要するのに(同規則第一三条第一項第一号イ)、その記載がないことが認められる。そうすると、まずこの点において、前記支払について、同法第四三条の適用はないというべきである。
2 そして、さらに、まず、後段の昭和六一年二月二〇日から同年五月二二日までの四回の支払の点についてみるに、貸金業者が利息制限法の制限額を超える利息および損害金の支払について貸金業の規制等に関する法律第四三条(いわゆる「みなし弁済」)の適用を受けるためには、その要件として債務者が預金口座払込の方法により弁済する場合(同法第一八条第二項)においても貸金業者が同法第一八条第一項所定の受取証書を交付することを要するものと解するのが相当である。けだし、同法第四三条第一項第二号の法文上、同条(みなし弁済)適用の要件として、何らの除外事由なく同法第一八条第一項所定の書面の交付が掲げられているし、右書面の交付によって、単に弁済の事実のみでなく、その元利充当関係が弁済者等に明確になり、よって資金需要者等の弁済者の利益保護を実現しうることとなり(同法第一条参照)、さらに、かく解しても、同法第一八条第二項の規定は、弁済者が同条第一項所定の書面の交付を請求しないかぎり、貸金業者はこれを交付しなくても刑罰を科せられないという点で無意味なものとはならないからである。そうすると、控訴人が被控訴人に対して、前記支払につき、同条一項所定の受取証書を交付したとの事実につき主張、立証のない本件においては、前記支払につき、その余の点を調べるまでもなく同法第四三条は適用されないと解するのが相当である。《証拠省略》を総合すれば、本件承諾がなされたことを除き、抗弁2後段のその余の事実(但し、控訴人が丁原松夫に対して交付した領収書には、貸付の契約年月日が昭和五八年一二月一五日と記載されている。)を認めることができる。しかし、本件承諾がなされたとの控訴人の主張事実については、これに副う控訴人本人尋問の結果(原審)が存するが、《証拠省略》によれば、控訴人と被控訴人との間で本件承諾に関する書面を作成したことはないこと、被控訴人は前記支払をなすにあたり、控訴人から厳しい取立てを受けており、領収書の細かな記載につき異論を唱えるような状況になく、差し出されるままに前記領収書を受け取っていたことが認められ(る。)《証拠判断省略》
そうすると控訴人は、弁済者たる被控訴人の承諾のないまま、真実は二回の貸付であるのにこれを一個の消費貸借であるかのように真実に反する記載をなした領収書を被控訴人に交付したにすぎないこととなる。資金需要者の利益保護(同法第一条)という同法の立法趣旨に照らせば、みなし弁済の成立要件については厳格な態度が要請され、また、特に元本の記載は元利の充当関係等につき重要な意味を有し、その記載が真実であることは特に強く要請されるものであるから、右のような領収書の交付では、同法四三条第一項(みなし弁済)の要件を充たしえず、この点からも、同条項の適用はないと解するのが相当である。
3 以上によれば、抗弁は理由はない。
三 結論
以上の次第で、被控訴人の本訴請求は本件貸付金八二九六円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年七月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容すべきであるが、被控訴人から付帯控訴の申立のない本件では、控訴人による控訴の不服申立の限度においてのみ原判決の変更をなすべきであって、結局、原判決は正当ということになる。
よって、本件控訴は理由がないものとして棄却すべく、民訴法三八四条、九五条本文、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 中嶋秀二 太田尚成)
<以下省略>